[CLIP]この男から目を離すな ~スティーブ・バノンの野望〜    「 第1回 トランプの操縦者」

 2017年1月20日、第45代アメリカ大統領が誕生した。ドナルド・トランプ。

 民主党のヒラリー・クリントンとの本格的な大統領選挙選が始まった当初、どれだけの人が予想したか。そもそも彼が共和党の大統領予備選に名乗りを上げた時から、お騒がせな“不動産王”の登場で、選挙を盛り上げるだけの一服の清涼剤にしか思われなかった。

 しかし、選挙戦が深まるにつれ、端からトランプを大統領候補として相手にしたとは思えないニューヨークタイムズやリベラルを気取る文化人は顔が青ざめ、それは現実となった。たった一人の男の大統領選への介入がその行方を舵取りしてしまったのである。スティーブ・バノン(63)。右派のインターネット・メディア『ブライトバート・ニュース・ネットワーク』の会長である。「私はただの労働者階級出身の一般の一人に過ぎず、特別な存在ではない」と言う。しかし、バノンの登場が大統領選の流れを一変させ、世界の動向に最も影響力を持つ超大国のトップを決めてしまったのである。そして、トランプが世界最高権力の座に就いた時、バノンはその間近で仕える首席戦略官となり、大統領上級顧問にも名を連ねることにもなった。トランプを蔭で操る参謀だ。『TIME』誌はバノンを表紙に飾り、「MANIPULATOR」=「操縦者」と特集している。 スティーブ・バノンとは? 大統領選で一体何があったのか?

 バノンは最初からトランプの大統領選に関わっていたわけではない。共和党の有力候補の一人だったテッド・クルーズが予備選を撤退したことで、その後援者で共和党の最大の資金提供者であるマーサー財団が、トランプにシフトチェンジしたことが発端だった。ロスチャイルドやロックフェラーと並ぶマーサー財団のロバート・マーサーはヘッジファンドで財を成し、共和党議員や右翼系の非営利団体に資金提供をしてきた。また彼は選挙コンサルティング会社『ケンブリッジ・アナリティカ』の大株主でもあり、同社はイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票の際、離脱側の依頼でデータ分析し、それを元に勝利に導く。バノンは同社の役員だった。マーサーはバノンをトランプ陣営に推薦し、以来、アメリカの“運命”が決定されていく。

 選挙対策本部長に起用されたバノンは『ケンブリッジ・アナリティカ』によって分析されたオンラインユーザーの心理的傾向を5000項目に分類した米有権者2億2000万人分のデータを元に選挙戦の陣頭指揮を執った。こうして世界を「アッ!」と言わせる政治劇の幕が下ろされた。バノンはマーサーをバックにしたその立役者であるが、この結果は彼らにとっては驚くにあたらず、序章でしかない。これまで右派のご意見番として『ブライトバート・ニュース・ネットワーク』で発信をしてきたバノンにとっては働き場所がホワイトハウス内に移ることにしか過ぎない。

 トランプは大統領就任以来、そのひと言ひと言が物議を醸し、メキシコとの国境に壁を設けるのもそうだが、その基本理念「アメリカ・ファースト」はバノンのそれでもあり、イスラム国からの入国規制やパリ条約からの離脱も政権内でバノンが中心となって押し進めた政策である。それに真っ向から対決する世論の矢面に立たされるトランプだが、そのルーツであるバノンの存在もメディアの攻撃の恰好の材料で、メディアの常套手段の一つである本筋とは違う、たとえば離婚した前妻への暴力疑惑やかつての女性差別発言などのプライベートを掘り起され、トランプから解任される形でバノンはホワイトハウスを去ることになった。このままでは“一発芸人”の誹りを受けざるをえず、後5年もすれば「あの人は今?」で雑誌で懐かしがられるだろうが、バノンは昼行燈なのか?

 先日13日、そのバノンが来日した。朝日新聞のインタビューに対し、「今でもトランプから頻繁に電話がかかってくる」という。バノンは首席戦略官辞任後、中国、香港と訪れている。中国共産党“7人衆”の、中でも習近平主席の信頼の厚い一人と密談した。それを機にそれまで重い腰のままでいた中国の北朝鮮への圧力が明らかに変化した。もはや世界は一瞬たりともバノンから目を離せない。「あの人は今?」に載るのは早すぎる。

(第2回に続く)