[CLIP]この男から目を離すな 〜スティーブ・バノンの野望〜 「第3回 スティーブ・バノンはダース・ベ イダーか」

 歴代のアメリカ大統領の中でもトランプほど話題に事欠かない人物はいないだろう。だから、政権発足以来、メディアは大忙しなのだ。とりわけ“トランプ嫌い”のリベラルを標榜するメディアだ。ただその中身といえば、政策論争に真っ向から挑むものではなく、選挙期間中も含めてそのほとんどが個人攻撃に関するものばかりである。

 要するに、トランプが政策をぶち上げてもメディアはそれを木で鼻をくくるかのようにまともに取り合おうとはせず、同じ土俵での議論を避け、いつの間にか矛先はトランプの人間性を問う議論にすり変わってきたのである。

 バノンは断言する。
 「トランプに纏わる個人攻撃の記事は一切信じないでくれ。実際、彼はナイスガイだよ。そもそもトランプがなぜ大統領になれたかわかるかい? ペンスやセッションズといった有力者のバックアップがあったからではなくて、無名の、今まで声をあげることができずにいた人たちを目覚めさせ、彼らがインターネットを駆使して連帯したからだよ。このエリートではない、普通の人々の連帯こそが大きな力を生んだんだ」
かく言うバノンが自身の持つネットメディア『ブライトバート』や役員を務める選挙コンサルの『ケンブリッジ・アナリティカ』でその舞台装置を仕掛けたのである。

 トランプの政策は「アメリカン・ファースト」を前提としたものだが、支持者はこれに心を搖さ振られた。外国からすると、超大国としての威厳を保ち続けるための傲慢とも受け取れる発想だが、かつての輝きを取り戻し母国への誇りと自信、世界のリーダーとしての責任を全うするためにも、トランプは誤解を受けかねないことも厭わず、足元からの大同団結のメッセージを掲げたのである。実はこれはバノンのメッセージでもあり、「これによって閉塞状況にあった労働者階級が立ち上がった」と彼は分析する。

 そのバノンはトランプ以上に「イスラム圏からの入国禁止」と「TPPからの離脱」を強く主張する一人であるが、そのほとんどが現実化した。そもそも彼の発言の意図は、「『アメリカン・ファースト』は孤立ではない。アメリカがもう一度、世界の中でリーダーシップを取ることであり、イスラム過激派に対抗することである」。
また、バノンは自らを“経済ナショナリスト”と公言し、「政権が最重要視すべきは貿易不均衡問題であり、貿易協定はあくまでも二国間で行うべき」を持論に展開してきた。この考え方こそがまさに「アメリカン・ファースト」実現への眼目で、トランプが先のアジア歴訪の際に発言し続けてきた「貿易は対等であるべき」と重なるのである。
果して政権の外に置かれた今でも、バノンの影が政権内にチラついて見えるのは亡霊なのか否か……。

 バノンがホワイトハウスにいた時、「暗黒は力なり。ダースベイダーを見ろ」 と、ダースベイダー気取りだったことからも、彼の残したまま今なおトランプの主張となって効力を発揮している諸々のことに亡霊論は否定されるのではないだろうか。ウォールストリートジャーナルは、バノンが首席戦略官を更迭される前夜、「バノンがインタビューの中で『北朝鮮への軍事行動はない』とトランプと矛盾する発言
をしたことで解任危機に陥った」と論じているが、それは瑣末なことに過ぎない。朝鮮半島情勢が刻一刻と状況が変化する中でいちいち意見が食い違っていることに目くじらを立てるなど、重箱の隅をつつくあら探しにもならない。バノンがホワイトハウスをあとにしたのは、トランプへの“個人攻撃”にヒートアップするメディアをいったん冷まさせ、それに連られて世論が誤った方向に行かないための措置に過ぎなかったのだ。

 肝心なことはアメリカが北朝鮮に直接向き合うことではなく、トランプ=バノンの頭の中には「対中国政策」が居座り、それが「アメリカン・ファースト」実現のための最重要課題で、バノンはそのためにホワイトハウスを追い出されたのではなく、飛び立ったのである。その後のバノンの動向と発言がそれを教えてくれる。
(続く)